上を下へのジレッタ 台詞書き起こし(二幕)

妄想歌謡劇「上を下へのジレッタ」の台詞の書き起こし、続きです。
(一幕はこちら







<開幕>

万博パビリオン ジレッタ館

M13 リアルの国からおじゃまします

門前「ありがとうございました!」
チエ・山辺・有木「ありがとうございました!」

有木「大成功だね、門前君!ライバルと目されていたアメリカ館は、閑古鳥が鳴いているそうだよ~!」
門前「社長のおかげですよ!」
有木「いや!これもすべて、ミスター・ジレッタこと山、やま、や……山チカ君のおかげだよ!」
山辺山辺だよ!だれだよ山チカって!」
有木「こりゃ失敬!」
山辺「いい加減、世界の名所巡りにも飽きちまいましたよ。ここらで一発、エロい妄想をしてもいいっスか!」
有木「エロい妄想!いいねぇ~!」
チエ「だめよ!子供も観に来るんだから!」
門前「どうせエロくならないよ!出てくる女はこのツラなんだから」
山辺「いけねえってのか?!」
有木「まあまあ!ここらでゆっくり休みたまえ。午後の妄想にそ、な、え、て、な!」
門前「社長!…おつかれさまです!」
有木「エロい妄想!いいねぇ~」


門前「…リエ!お前、来てくれたのか!」
リエ「結構な盛況ぶりで」
門前「ああ。毎日のように世界中のメディアから取材が来ているよ。…今ならお前も仲間に入れてやってもいいぞ?」
リエ「………少し見ない間に、随分と平凡な顔になったものね。まるで別人よ」
門前「別人…?小百合チエじゃあるまいし」
リエ「それとも、こっちがあなたの本性かしら?またどこかですれ違ったとき、気づけるといいのだけど」
門前「……おい、いったいどういう意味だ。リエ!おい、リエ!!」

門前「………チエ。こっちへ」
チエ「は、ハイ……」
山辺「おい!人の彼女を気安く呼ぶなよ!」
チエ「いいから!」

門前「土曜日に部屋に行くよ。それまでにコンディションを整えておけ」
チエ「また断食しろって言うんですか?!」
門前「忘れたのか!お前はジミーの一件で我が門前プロに大損害を与えたんだぞ!」
チエ「………わかりました」
門前「それでいい」


山辺「…またアイツにいじめられたのか?」
チエ「……オンちゃん。私、待つよ、アンタとの結婚。オンちゃんが成功して、誰も頭が上がらないようになるまで」
山辺「なんだよ急に…」
チエ「だって、今のオンちゃんの勢いはすごいんだもの。この勢いを、式場選びだの披露宴会場選びだの、引き出物選びだので止めちゃいけないよ!」
山辺「キミちゃん…俺のためにそこまで思って……。なんてかわいい人なんだッ!」
チエ「頸動脈…!」
山辺「うわぁぁごめん!」
チエ「うんうん、オンちゃんがここまで腕力を取り戻してくれて嬉しい」
山辺「確かに君の言う通りだ。ここは芸術家として踏ん張りどころなのかもしれない」
チエ「それがわかったら、私に構わず行って!午後からはヨーロッパのお城巡りでしょ?」
山辺「ああ。ヨーロッパのガイドブック、穴が開くほど読み込んでやるよ!!」

チエ「………」

ジレッタ館前

竹中「あら。そこにいるのは春海なぎさじゃなくて?」
チエ「竹中社長!…と、秘書のナントカさん!」
秘書「(ガクッとしつつ)君もジレッタを見に来たのかい?」
チエ「いえ、私は……」
竹中「隠さなくたっていいのよ。ジレッタを発明した山辺音彦さんは、あなたの恋人なんでしょ?だからここに来れば、あなたに会えるって思ったのよ」
チエ「私に?」
チエの手を取る竹中
竹中「……許してちょうだい、なぎさ。あなたを手離したことは、この竹中郁子、一ッッ生の不覚だったァーーーー!!」
チエ「ぇえ?!」
秘書「君の才能を妬んだ人間が流したあらぬ噂に、我々はまんまと騙されてしまったというわけさ」
チエ「覆面を取ったからクビになったんじゃないんですか?!」
竹中「まさか~!そのときが来たらあなたのその美、…アレ?美、……オヤ?びぼ……」
秘書「郁子!」
竹中「おう。……美貌をね!ファンの皆さんに披露する予定だったのよ~!」
チエ「そうだったんですか…!」
竹中「ええ。……お願いなぎさ。私のところに戻ってきて」
チエ「でも私……今は他の事務所に入っていて……」
竹中「戻ってきてくれたら待遇は見直すわ。そうねぇ…ギャラの配分も、7:3にしてあげる」
チエ「さ、さ、さささ3割もいただけるんですか?!わ、わわわたし社長と掛け合ってみます!!」
竹中「いい返事待ってるわ!」
チエ「よろしくお願いしま~~~す!」

秘書「………将を射んと欲すればまず馬を射よ」
竹中「ジレッタさえ手に入れればあんな娘に用はないわ!…ま、それまではせいぜい大切に扱っておやり」
秘書「かしこまりました」


門前「聞いたか山辺。あれが悪名高い竹中プロの竹中郁子だ」
山辺「おれのキミちゃんをもてあそびやがって~~~ッ!」
門前「復讐したいなら良い考えがある。ジレッタだ」
山辺「ジレッタ?ジレッタでどうやって…」
門前「想像しろ山辺。この国の芸能界には、奴隷のようにこき使われている娘が大勢いるんだ」
山辺「ゆ、許せねぇ…ッ」
門前「ああ、それだ。怒りのジレッタを見せてやれ」

ジレッタ館

竹中「まぁ!私のためにジレッタ館を貸切に?」
門前「ショービジネスのプロである社長に、一般客と同じ子供だましを見せるわけにはいかないですよ」
秘書「自信家の君らしくないな。なにか裏でもあるんじゃないか?」
門前「正直言うと、馬鹿にされたくなかったんですよね。公開前の特製のジレッタを見てもらおうと思って」
竹中社長を睨みつける山辺
竹中「あの。どうして彼はさっきから私のことを睨んでいるのかしら…」
門前「えっと……集中しているんだよな!」
山辺「どうぞ、ご堪能しやがれ」

門前「さあ、これを」
門前、竹中社長と秘書にヘッドホンを手渡す
竹中「? ジレッタって見るものなんじゃないの?」
門前「見るというより、味わうんですよ。全身でね…」

ヘッドホンを装着する二人

竹中「なぁに、これ。な~んにも聞こえない」
秘書「壊れてるんですかねぇ」


~~ジレッタ~~
秘書「しゃ、社長!あれを…!」
竹中「なぁに?!あの、こっ恥ずかしい娘たちは!」
秘書「社長!我が社をクビになった元アイドルたちですよ!」
竹中「クビになって当然ね!こんなこまっしゃくれた娘たち…」

M14 アイドルの逆襲

【つづく…】


門前「これくらいで勘弁してやるか。おかえりなさい。気分はいかがですかー?」
秘書「…き、きみーーー!!」
竹中「―――さいこうのきぶん」
門前・秘書「え?」
竹中「めいっぱいげんきをもらったわ。いくこ、あしたからもがんばります!」
秘書「しゃ、社長…?」
竹中「I! L O V E!……K・U・K・O! IKUKO! ………きゃはははーーー!」
秘書「うわぁ~~社長が狂っちゃった~~~!しっかりしてください、社長~~~!」


門前「………お前はいったい何を見せたんだ?」
山辺「ぜんぶあいつらがキミちゃんにしてきたことさ」
門前「俺が思っている以上だな、ジレッタの威力は…」
山辺「ああ。だから覚えとけ。アンタを発狂させることだって、俺には簡単なんだからな」
門前「…ァア゛?」

(檻が閉められる音)
投獄される山辺

秘書「竹中プロは、我が社の社長竹中郁子の精神を狂わせた山辺音彦を、傷害罪及び脅迫罪の罪で告訴する!」
山辺「そんな…!」
門前「山辺ー!」
裁判長「証人は速やかに証言台へ」
門前「…失礼いたしました」

裁判所

検事「門前さん。ではあなたは、今回の件とジレッタは無関係だと仰るんですね?」
門前「ジレッタは合法的な催しです!訴えられる筋合いはありません!」
検事「しかしあなたは一般には公開されていないものを竹中さんに見せた」
門前「ジレッタは娯楽なんです!…皆さんも、ぜひ一度見に来てください。平日の昼時が狙い目です!」
裁判長「神聖な法廷の場で宣伝活動はやめなさい」
門前「失礼いたしました…」
裁判長「被告人。最後に言いたいことはあるかね?」
山辺「なんつーか、なんでこんなことになっちまったんだかなー。誰だって妄想くらいするでしょ?いろいろうまくいって大成功するだとか、嫌いなヤツがひっどい目にあってニヤニヤするだとか。好きな子といいムードになって一発ヤッちゃうだとか!いや一発じゃすまねぇな!二発?三発?!」
門前「おい、山辺山辺ーッ!」
裁判長「静粛に!ではこれより判決を言い渡します。被告人・山辺音彦は………無罪!」

全員「………えっ?!」

山辺「やったー!無罪ーーー!!」
門前「しかし誰一人納得してねぇな。とっととずらかるぞ!このままだと判決が覆りそうだ!」

出所を待ちわびていた女たちに囲まれる山辺

M15 ジレッタに出して

山辺「おい!キミちゃんを笑いものにするなよ!!」
門前「いやお前、誰が見たってあっちのほうが……」
チエ「オンちゃ~~ん!無事に出所できたのけ~~~!」
門前「チエ!」
有木「君は、いつぞやの美女…!」

チエの美貌に怯み、女たちは退散する

門前「相変わらず凄まじい破壊力だな、こっちの顔は」
有木「ジレッタの出演希望者は後を絶たんよ」
門前「そりゃそうでしょう。ジレッタの中では、山辺次第でルックスをいくらでも補正できますからね」
有木「だからといって本物が変わるわけではあるまい」
門前「彼女たちにしてみればどっちだっていいんですよ。それが偽物だろうが本物だろうが、可愛くさえしてもらえれば」
有木「なるへそ」

山辺「その様子だとまた何日も食ってないんけ?」
チエ「アンタのことが心配で…」
山辺「よし!牛丼でもラーメンでも、腹いっぱい食いに行こう!」
チエ「シャバに戻れたお祝いね!」
門前「その前に言うことがあるだろう!お前を無罪にしてくれた恩人に!」
山辺「あ、どうもありがとうございましたー」
チエ「じゃ、続きはご飯を食べてからで」
有木「……いや!さすがに今回は私の力だけでは無理だった。然る御方の協力がなくてはな!」
門前「“然る御方”…?」

首相官邸

門前「塩釜首相?!」
チエ「総理大臣だよ、オンちゃん!」
塩釜「―――山辺さん。あなたはジレッタという独自の表現活動をなさる無形文化財だそうですね」
山辺「むけい…?おれが?」
塩釜「そのような方を刑務所送りにしたとあっては、日本の恥です」
有木「さぁ、首相にお礼を申し上げなさい」
門前・山辺・チエ「ありがとうございます!」
有木「しかしここまでのことをしてもらったからには、御恩返しをしないわけにはいかんだろう」
山辺「じゃあ…似顔絵でも描きましょうか」
塩釜・閣僚たち「アッハッハッハッハ!!」
塩釜「失礼です!……似顔絵も結構ですが、どうでしょう?ここは一つ、私にその、ジレッタなるものを見せていただけませんか?」
門前「ジレッタを…?いや、それは無理です。専用の設備がなければ…」
有木「設備なら、ジレッタ館と同じものがすでにここにあるんだよ!」

山辺が使用する黄色いソファ型装置が現れる

門前「…社長ですね?」
有木「門前君!首相をお待たせしてはいけないよ。さ、こちらへ…」
門前「……かしこまりました」

(BGM:ジレッタ電子音)
門前「これは何かあるな」
山辺「どういう意味だよ」
門前「ジレッタ鑑賞だけが目的じゃないってことさ」
山辺「で?首相たちにはいったい何を見せればいいんだ?」
門前「政治家が喜ぶ出し物っつったら、アレだろ」


~~ジレッタ~~

M16 邪道の嘘つき

【つづく…】


(BGM:ジレッタ電子音)
門前「大丈夫ですか、首相…?お前はいったいなにを見せたんだ?!」
山辺「俺はもともと政治家っていうやつがあんまり好きじゃないんだ」
チエ「オンちゃん!また訴えられちゃうよ?!」
並んで座りこむ門前・山辺・チエ

有木「いかがでしたか、首相?」
首相「……聞きしに勝るものでした」
閣僚1「今のがすべて妄想……信じられん」
閣僚2「もしこれが野党の手に渡ってしまえば、選挙に利用されてしまいますな…」
閣僚3「国民はすぐに騙されてしまう」
有木「…ま、てめぇらは騙してねぇのかって話ですが」
閣僚1・2・3「……は?」
首相「有木さん。よくぞ真っ先に私に知らせてくださいました。厚生大臣、全国の水洗式トイレの普及を、有木さんの会社に」
閣僚1「便宜を図ります」
有木「恐悦至極に存じます」
首相「門前さん。山辺さん。大変貴重な体験をさせていただきました」
門前「…お気に召していただけましたか?」
有木「ジレッタは将来、我が国を代表する文化となるでしょう」
門前「私もそれを願ってやみません」
首相「そこでどうでしょう。全国に放送網を敷き、ジレッタの公共放送を始めてみてはいかがですか?」
山辺「公共放送?!」
チエ「NHKみたいなもの??」
首相「国が全面的にバックアップします」
有木「もちろん、我が日本天然肥料もな!」
門前「……ぜひやらせてください。それこそ俺が望んでいたことです!」

一年後 NDA(日本ジレッタ協会)

門前の秘書「放送総局長!」
門前「なにかね」
門前の秘書「間リエという方がお見えです」
門前「なに?!あのリエかね?」
門前の秘書「…どの?」
門前「あのリエかね??」
門前の秘書「………どの?」
門前「通したまえ!」
門前の秘書「かしこまりました。…だからお呼びするまではお待ちいただくよう…っ」
リエ「なんなの?その喋り方は」
門前「あのリエだ!」
リエ「このリエよ」
門前「いったい、なにをしていたんだね?」
リエ「まあ…いろいろと」
門前「こっちもいろいろあったよ。あ!こちらの情報は筒抜けか~!なにしろ始終マスコミがはりついていたからなぁ!」
リエ「ごめんなさい。近頃テレビも新聞も見ていなくて」
門前「そうか…。まぁ、嬉しいよ。君は必ず俺に会いに来ると思っていたよ」
リエ「お別れを言いにきたの」

門前「え…」

リエ「私、結婚するのよ」
門前「…誰と」
リエ「あなたの知らない人。世界を飛び回るバイヤーよ。今夜、彼とジュネーブに発つわ」
門前「そいつは急だな……」
リエ「…じゃ、そういうことだから」
門前「……俺に止めてもらいに来たんだろ!」
リエ「………は?」
門前「プライドの高いお前がそこらの男で満足するはずがない。結局お前には俺しかいないんだよ」

M17 ありふれた男

門前「リエ、戻ってきてくれ!リエ―――…!!」


山辺「なんだようるせぇな!ちっとも集中できねぇじゃねぇかよ!」
門前「……政府が用意した試験放送の台本か」
山辺「ああ。お堅いことばっかでぜんぜん頭に入ってこねぇ」

門前、山辺の手から台本を奪い、破り捨てる

門前「…山辺。こんなもの無視して好きにやれ」
山辺「いや、でもそういうわけには…」
門前「山辺!お前は芸術家だろう?公共放送だろうが関係ない、自由にやるんだ。全力でふざけてやれ!」
山辺「そんなことして、お前責任取れんのかよ?!」
門前「取らない!!」
山辺「取らないの?!」
門前「放送が終わった途端、面子を潰された政府の連中どもは血相を変えて俺たちを探すだろうよ。ところがその頃には海外に高飛びだ」
山辺「海外に…?!」
門前「行先は、………ジュネーブ!」
山辺「ど、どこだそこ…?!」

(BGM:虚構の共犯者)
門前「やるぞ、俺は……これ以上ぬるま湯に浸かってたら風邪ひいちまう。虚構の天才門前一郎、完全復活だ!!」

ソファ、机を軽々と飛び越える門前

試験放送 当日

塩釜「いよいよですね、門前さん!」
門前「さながら死刑執行前の気分ですよ」
塩釜「誰があなたを死刑にするもんですか。この放送が終わったら、あなたは英雄です!」
有木「いささかお堅い内容ですが、まあいい。テレビと同じさ。徐々に緩めていけばいい。我が日天肥の社運もかかってるんだ…」
塩釜「有木社長!あまり露骨に利権を求めてはいけませんよ」
有木「これは失礼」
門前「では、ごゆーっくり…」
有木「なんだね。君は放送を見ないのかね?」
門前「死刑執行前の気分にも二通りあるでしょう。死刑される側と、する側の」
塩釜「……今のはどういう意味です?」
門前「ずぉっと!そろそろ放送が始まる時間ですぞ」
塩釜「……ずぉっとってなんですか?」


5、4、3、2、1―――
~~ジレッタ(試験放送)~~

M18 虚構の共犯者(リプライズ)

正装姿のチエと山辺、日本を讃える歌を歌いあげる

塩釜「すばらしい!」
有木「やっとまともな美女を出したな」
塩釜「どの方面からもお叱りを受けない、公共放送のあるべき姿です!」
有木「味も素っ気もなくて堪りませんな!」

スモークが立ち込める
赤い照明
艶やかな着物姿の女たちを従え、現れる門前

塩釜「これは……?」
有木「台本にはありませんが…」
塩釜「…門前さん?!」

すべてまやかし すべては虚構
    * * *
アンビバレントなニッポン社会
アンビバレントなボクらの社会

有木「極めて自虐的な歌詞ですな」
塩釜「今すぐ放送を中止なさい!さもなくば、衆議院を解散しますよ!!」
有木「首相!我々は今、妄想の中にいるんです。いくら声を上げても現実には届かない…!」
塩釜「声が届かないのは、国民のほうだとばかり思っていたのに…!!」

作り笑顔の 世渡り上手
さらせ ジレッタで 本性を
リアルの自分は守りつつ
ジレッタの中ではアグレッシブ

むかつく奴は 撲殺 銃殺

門前、チエ、山辺ら、
己の欲望や感情を解き放つかのように激しく歌い踊る

我慢しないで ジレッタの中では
我慢しないで ジレッタの中では

ジレッタが終わり、うなされる塩釜首相、有木

逃げた? 山辺が? 門前も?
逃げた! 山辺が! 門前も!

ジレッタ確保に向け、右往左往する閣僚、部下たち

(電話のコール音)
門前「ハロー、ジミー」
ジミー「門前!?」
門前「アンタの友人のバンドが今日本にいるよなぁ?そこで頼みがあるんだが、そいつらが出国するときに山辺って日本人を連れて行ってほしい。ただし、誰にも気づかれないようにな!」
ジミー「亡命ってことか…」
門前「嫌とは言わせないぜ!アンタは俺にでかーい借りがあるんだ!」

塩釜・有木・閣僚「門前!?」
門前「なにか不満でも?妄想でも言ってることは真実ですよ」

すべてまやかし すべては虚構
ヤバいものには ふたをして
見て見ぬふりで 先へ送る
「言わぬが花」で黙ってましょう
顔で泣いて 背中で笑う
島国根性 出る杭は打て
おのれ以外は 横並び
アンビバレントなニッポン社会
アンビバレントなボクらの社会


スイス行 飛行機機内

ナレーション『対抗勢力にジレッタを取られることを恐れた政府は山辺を指名手配した。だが、時既に遅く、山辺は飛行機の貨物に身を隠し、一路スイスを目指していた。しかし、彼だってこんなところで24時間以上閉じ込められていては、当然………』

M19 機内のシンパシー


スイス 門前のアジト

門前「そいつはきっとジェット機の爆音が原因だ」
チエ「オンちゃ~ん!」
山辺「キミちゃ~~ん!」
門前「爆音の中の超音波がお前の脳を刺激した」
山辺「またその顔に?」
チエ「あんたがいないとどうしても…」
門前「そうして発生したジレッタを、爆音の中にいた乗員乗客全員が体験したってわけだ……こいつはすごいことだぞ!もうヘッドホンなんかいらない、お前は自由自在にジレッタを操ることが―――」
山辺「スイスの名物ってなんだろな」
チエ「チーズかしら?」
山辺「よし、食いに行こう!」
門前「って聞けよ!…なんなんだお前らは。顔を合わせれば食い物の話ばかり。これが一世を風靡したアイドルと、かのジレッタアーティストの会話か?!」
チエ「でも私は、デビューと同時にコケました」
山辺「俺だってもう引退だ」
門前「何言ってるんだ。お前はとうとう覚醒したんだぞ?これで世界中にジレッタを見せてやれる!」
山辺「世界中に見せて、今度はどこに逃げるんだ?あ?宇宙か?!くっだらねぇ。俺はジレッタとは縁を切る!」
チエ「気持ちはわかるよ…」
門前「…ジレッタをやめてなにするつもりだ?ア?また漫画家か。日本でウケなかったから今度はスイスでウケるってか?お前ら結婚するんだろう。金は?どうやって食ってくつもりだ?!」
山辺「そんなにあれこれポンポン言うな!」
チエ「でも、ジレッタをやっていてもちっともお金が貯まりません!」
門前「頭を使えよ、頭を!コイツが眠れと念じただけで空港中の人間が眠っちまったんだぞ。ということはだよ、例えば、スイス銀行に俺たちの貯金が一億マルクあると思わせて―――……小さい。小さすぎる。これが天才門前一郎の発想かァーーー!?」
チエ「誰と話しているのかしら…」
山辺「自分で自分のことを天才と言ってるくらいだから頭おかしいんだよ」
門前「……ちょっと待て。お前さっき言ったよな?!今度は宇宙に逃げるのか、って」
山辺「言ってねぇ!」
チエ「言ったわよ!」
山辺「!!」

門前「それだ……いっそ地球を飛び出して、宇宙に目を向けるんだ!…こういうのはどうだい。月が接近してきて、しまいには地球に衝突する……」

チエ「月が?!」
山辺「そんなことしてお前、どうなっちまうんだよ」
門前「さぁ…そいつは俺にもわからない。パニックになって崩壊するか、あるいはまた新たな世界が生まれるかもしれないな」
チエ「そんな…」
門前「……山辺。俺たちは何のために日本を飛び出したんだ?」
山辺「それは…指名手配されたから…」
門前「そうじゃない!お前の才能を受け止めるには、日本は小さすぎたからだ。…なぁ、山辺。どうなんだ?芸術家として生まれたからには、より広い世界で勝負したいと思うのが普通だろう…?!」
チエ「だめだよオンちゃん!この人勢いだけで喋って…」
門前「黙ってろチエ!これは男同士の魂の会話だ!!」
山辺「…そりゃ!俺だって、いつかは一発当てたいって思ってる、けど……」
門前「……決まりだな。タイトルは『地球最後の日』。決行日までにイメージを固めておけ。世界中が信じて疑わない、地球滅亡のイメージをな……」

チエ「………」
山辺「…し、心配すんなって!いくら俺の感度が上がったからって、さすがに世界中にジレッタを見せれるなんて…」
チエ「オンちゃん!言いたいことは山ほどあるけれど…」
山辺「ああ、言ってくれ!」
チエ「でも今はとにかく、お腹が空いて…」
山辺「…あ、ああ!続きは飯を食べてからにしよう!」
チエ「そうしていい…?」
山辺「ああ、もちろん!キミちゃんがいつも満腹でいられること。それが俺の、一番の望みさ」
チエ「オンちゃん…!」

一か月後 リエの新居

(BGM:野望と現実のはざまで……)

門前「へぇ…バイヤーってのはそんなに儲かるのかい。旦那は麻薬でも売りさばいてるんじゃないか?」
リエ「不可能だわ。世界中にジレッタを見せるだなんて…」
門前「明朝、アメリカからロケットが発射される。なんと世界初の有人ロケットが火星へ飛び立つんだ。そのニュースはすべてアメリカの宇宙基地から中継される。当然、世界中がテレビやラジオに釘づけだ。…じゃあ、その基地から超音波を発信したら?」
リエ「そんなことできるわけが…」
門前「この俺にできないとでも思うか?!」
リエ「……」
門前「地球が終わるとなれば大恐慌どころの騒ぎじゃない。特に取引で食ってる人間なんかは真っ先に気が狂うだろうよ」
リエ「主人のことを言っているの?」
門前「…あ。そういえばご主人はバイヤーだったよね」
リエ「脅迫するつもり?」
門前「いや、俺はただ今後の予定を…」
リエ「何が望みなの?!」

M20 ただ1つの真実

門前「………だったら、地球が終わるまでの間、せいぜい旦那に言い聞かせてやるんだな。これはぜんぶ妄想だって…!!」
リエ「待って!………そんなことさせないわ。絶対に」

ライン川のほとり

チエ「ねぇ、オンちゃん。あんた本当にやるつもり?」
山辺「キミちゃんが言ったんだぞ?俺が成功するまでは結婚しないって…」
チエ「世界中の皆さまにご迷惑をかけることが成功?」
山辺「その先にあるんだよ、成功が。皆が目覚めて、ぜんぶ俺の仕業だってわかったときに、世界中が俺を見直すんだ!」
チエ「センセイみたいなこと言って!」
山辺「………ほら、チーズでも食って機嫌直せよ」
チエ「ありがとう!」

(車のブレーキ音)

チエ「あれはセンセイの…」
門前「ああ、門前の別れた女房か」

リエ「呑気な顔して。いい気なものね」
チエ「…何か用ですか」
リエ「……醜い顔」
山辺「なんだよお前、さっきから顔のことばっかり!」
リエ「最初からそのお顔が相手なら、私もあいつの前で醜態晒さずに済んだってことよ」
チエ「……行こ、オンちゃん」
リエ「ええ、あなたは行って。私が用があるのは山辺さんのほうだから」
チエ「…オンちゃんに?いったい、何の用があるって言うのよ?!」
リエ「あなたに言う必要が?あなたにだって言えないことの一つや二つあるでしょうに」
チエ「私に?ないわよ!」
リエ「じゃあ山辺さんは知っているのね?あなたと彼の関係を」
山辺「彼…?」
リエ「デビューに失敗してからも、毎週末小百合チエになっていたのはなぜ?」
チエ「…行くよ、オンちゃん!」
リエ「ずるい女!嫌がっているフリして、上手に二つの顔を使い分けてたんだわ!」
チエ「……それ以上私を侮辱したら、ただじゃおかないよ」
リエ「やってごらんよ、ブス」

チーズを投げ捨てるチエ
山辺「…あ、チーズ!」

チエ、リエの頬を打つ
山辺「キミちゃーーーん!」
やり返すリエ
山辺「ああーーーー!」

チエ「…こ、このアバズレ…!ぜってー許さねぇかんなーーー!」

山辺「あ、キミちゃんー!」
リエ「! あなたは私と一緒に来るの!」

チエ「待てこのアマーーーー!」
(BGM:決闘のテーマ)
身の丈ほどの丸太棒を抱えて戻ってくるチエ
リエ「きゃ!」
山辺「キミちゃん!なに持ってんだよ!?」
チエ「忘れたの?!私はミス・丸太ん棒よ!!」
山辺「いや、それ意味ちがう…!」
チエ「こんのアバズレ~~!」

チエ「私の男から手を離せ~~~~!!」
リエ「あなたに言われる筋合いないわよ!」
山辺「あぶないってキミちゃん!川に落ちたらどうするんだよ!!」
リエ「聞いて、山辺さん!あなたの彼女は、ずっと前から門前と…」
チエ「こいつー!」

丸太を振りかぶりリエに襲い掛かる
リエが咄嗟に避けると、チエはバランスを崩し、ライン川へ落ちてしまう

チエ「きゃーーーーーーーー」
山辺「き、キミちゃん!?キミちゃーーーーーーん!!」


ナレーション『ライン川の流れは早く、瞬く間にチエをはるか下流まで押し流していった。どれほどの時間が経っただろう。偶然通りがかった遊覧船に発見されたとき、チエはすでに意識不明の重体だった―――』

病院

看護婦「門前さん。シカゴから国際電話です」
門前「ありがとう…。……門前だ」

ギャングのボス「よぉ、先生。調子はどうだ?」
門前「…最悪だ」
ギャングのボス「そいつぁよかった。こっちは準備万端だ。宇宙基地のアンテナに細工してやったぜ」
門前「山辺のフィアンセが瀕死の状態なんだ!」
ギャングのボス「そいつぁよかった。これで予定通り、超音波が発信されるってわけだ…」
門前「今の山辺はジレッタどころじゃない!」
ギャングのボス「そいつぁよかった」
門前「あんた俺の話聞いてるのか?!」
ギャングのボス「門前!!…俺たちファミリーはな、このビジネスに大金をはたいてるんだ。Mr.ジレッタのスケがくたばろうがなんだろうが関係ない。後戻りはできねぇんだよ」
門前「…脅したって無駄だぞ。この門前一郎、相手がギャングだろうが大統領だろうが…!」
ギャングのボス「ロケットの発車時刻はそっちの時間で、………何時だっけ?」
小競り合いをはじめるギャングたち
ギャングのボス「おい。ケンカはやめろ?ケンカはやめろ??」
門前「…もしもし?」
ギャング「みょ、明朝6時です!」
ギャングのボス「明朝6時だ!!」
門前「…ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ギャングのボス「待てねぇな!!しっかり見張ってるからな。どこにも逃げられないように……」


看護婦「門前さん!チエさんの意識が…!」
門前「! 戻ったか…!?」

チエの病室

医者「いやはや驚きました」
門前「じゃあチエは…!ありがとうございます!」
医者「いきなり美人になった」
門前「そっちーーー!?」
チエ「…ごめんよオンちゃん、こんなときに…」
山辺「もう何も言うなって」
チエ「オンちゃん…私、あんたに会えてよかったよ」
山辺「それを言うなら俺だって…!」
チエ「なんだかずいぶん、遠いところまで来ちまったねぇ…」
山辺「ああ…そうだな……。元気になったら、一緒に田舎に帰ろうな!」
チエ「それはちょっと、無理かもしれない……」
山辺「ど、どういう意味だよ……」

M20 食うか飢えるか(リプライズ)

山辺「キミちゃん…?」
医者「……。ご臨終です」
山辺「う、うそだろぉ……キミちゃん……!なぁ、キミちゃん!!」

山辺「おい門前!なんでキミちゃんが死ななくちゃならねぇんだ!?説明しろよ!!」
門前「わからない…俺の専門はフィクションなんだ。現実については、なに一つ説明してやれない……」
山辺「ちっくしょう…!キミちゃん………」

腕時計を盗み見る門前
山辺「…おい。こんなときに時間が気になるのか…?」
門前「いや、そういうわけじゃ…」
山辺「お前はこの期に及んでまだ俺にジレッタをさせようってのか?!」
門前「嫌ならやらなくていい。中止にするまでだ…」
山辺「できもしねぇクセに!」
門前「できるさ!…殺されるかもしれないけどな」

山辺「………やるよ」

門前「え…」
山辺「キミちゃんのいない世界なんて、めちゃくちゃにブッ壊れちまえばいい。完全に消えちまえばいいんだ!!」
門前「……ああ、そうだ。消せ…消せ!地球まるごと吹き飛ばしてしまえ!!」

ジレッタ決行日

ギャングのボス『準備はいいな?ミスター門前…』
門前「…ああ」
ギャングのボス『ニューワールドの始まりだ。グッドラック―――』

門前「行くぞ、山辺…」

『Ignition Sequence Starts. Five,Four,Three,Two,One,Zero―――』

門前「今だ。始めろ――…!」

M22 Ave DILETTA

静かに、不気味に、接近してくる月

門前「いいぞ…山辺……良い感じだァ!月よ、思いっきりぶつかってこい!!ハハハ、アハハハーーー!!!ッッ!!?」

強い風が吹く
不吉な予感が門前の頭を掠める
脳内に響く山辺の声

山辺(キミちゃんのいない世界なんて、ブッ壊れちまえばいい。完全に消えちまえばいいんだ…ッ!!)
門前「おい…山辺…?お前まさか……」
山辺(だったら俺も消えてやる!!)
門前「おい…!山辺!やめろ……ッ」

何かが衝突したような破壊音
頭を押さえ、倒れる門前
かろうじて意識を保ちつつ、よろめく足どりで彷徨う
やがて懐かしい人が目の前に現れる

門前「……リエ!?」

いつだって
サプライズの仕掛けで 頭がいっぱい
みんなをハッピーにもしたけど
誰より あなた自身が 喜んでいた

門前「リエ…!」

Hey! Mr.Yesman!
Oh, I am a Yesman!

Keep on lying.
君が見つめているうちは…

頂点までの 長い旅路をあざ笑う
一瞬のうちに起こる 無情な転落
一度貼られたレッテルは 簡単には剥がせない

走馬灯のように現れては消える人々
最後の一人が歩いてくる

門前「チエ……!」

I love you. I need you.
Do you love me?
I love you. I need you.
I'll kiss you in the moonlight.

チエの声に反応する山辺
歌声に導かれるように、チエの元へ

有難う またね 気をつけて
明日も 会おう あさっても
いつも同じくりかえし ぐるぐると
わたしときみの
わたしときみの 帰り道

山辺とチエは手をつなぎ、ジレッタの引力の中心へ一歩ずつ進んでいく

門前「行くな…山辺…!お前が行ってしまったら、誰がジレッタを止めるんだ!!山辺!!…山辺ーーー!!!」

まばゆい光に包まれながら消えていく二人
引力に抗おうとする門前
しかし狂信者に身体を捕えられる

門前「……よせ。俺は行かねぇぞ…!妄想だ…全部妄想だ…!!妄想なんだ!!!」

ジレッタに引っ張られ、飲み込まれていく門前
最後の瞬間、“こちら側”に手を伸ばし、叫ぶ


門前「――――現実!!」



雑踏、車のクラクション……日常にあふれる東京中の騒音
鉄柱 ジレッタの始まり
騒音が静まり、超音波だけが微かに流れ続ける


やがて超音波は止み、【つづく…】は【おしまい】に


カーテンコール

M23 上を下へのジレッタ

Oh ジレッタ まどろみ 夢みて 目覚めて
Oh ジレッタ さよなら 上を下へのジレッタ
ジレッタ ジレッタ


<終>